猩々ヶ池(しょうじょうがいけ)

猩々ヶ池(しょうじょうがいけ)

猩々ヶ池のイメージイラスト

昔、八幡(やわた)の町は「上千軒、下千軒」と呼ばれ、大いに繁昌していました。その頃のことです。

一軒の酒屋があり、こさじ、という女の人が働いていました。ある日、この酒屋へ、顔が赤く全身に毛が生えた猿でも人間でもない、猩々(しょうじょう)と呼ばれる獣(けもの)がやって来たのです。猩々は、身ぶり手ぶりで酒を飲ませよと仕草をしました。こさじが恐る恐る酒を出してやると、それを飲み干し、満足そうにしました。すると猩々は、飲み干した盃に、自分の血を注ぐではありませんか。そして血を残したまま、立ち去ってしまいました。

実は、猩々の血にはふしぎな力があって、高い値段で売れるものだったのです。

強欲な酒屋の主人は、次に猩々がやって来たら、殺して血をたくさん採って、大金を得ようとたくらみました。

それを知ったこさじは、そんなことになったら猩々がかわいそうだと考え、また猩々が酒を飲みにやってきた時に、主人のたくらみを告げたでした。すると驚いたことに、猩々はそれでも酒が呑みたい、というではありませんか。それだけでなく、もし自分が殺されたら、その三日も経たないうちに大津波がおしよせるから、そのときは末の松山に登って難を避けよ、とこさじに告げたのです。

次に猩々が酒屋を訪れると、主人は夫婦で大酒をすすめ、酔いつぶれた猩々を殺し、全身の血を抜き採り、屍を町の東にある池の中に投げ棄ててしまいました。

その翌日です。空は黒雲に覆われ、ただならぬ様子となりはじめました。こさじは、これはたいへんだと思い、猩々が語ったことに従って、末の松山に登りました。やがて本当に津波がやってきて、繁昌していた八幡の町は、家も人もすべて流されてしまいました。こさじは、古来決して津波が届かないと言われてきた末の松山で、難を逃れることができたのでした。

猩々の屍を棄てた池は、のちに「猩々ヶ池」と呼ばれるようになったということです。